アイツが動くと何かがおこる
近年の攻撃ではもはや当然の感のあるモーション・シフトである。ごく自然に行われているようだが、その
実、プレーの持つ意味合いは深く且つ重要であると考える。攻守にシステマチックな対応が求められる関西
学生リーグにおいては、正確に且つ確実に対応しなければ守備にとって致命傷にもなり兼ねない。また個々
のプレーによってはチェンジオブペース的に使われるものもあれば、攻撃の切り札的プレーに使用されるも
のもあり千差万別である。ここでは関西学生リーグDIV.1の試合で見られたプレーを中心に個々のプレ
ーとその目的、背景について考えてみる。
1.KGのUB→FL(Iからスプレッド/ローンバック)
(図1)
×−−−┐/
/
/|
/ |
○ ○○□○○○ ○ | ○○□○○○
○ ○ ● ○ ○
#83 |
●#83 ×
○ ○
「セット時」 「プレー開始時」
*=フェイク ×=パス、パスキャッチ
図1は今季VS同志社戦で見せたプレー。第1Q同志社エンドゾ−ン前でのKG攻撃。プロセットのI体型
からUBに入った#83椋木(WR)が左FL(SB)に出て左スプレッドになる。守備のアサイメントミ
スを誘うプレーで、実際同志社のCB1人に対してKGはSEとモーションしたSB(#83)の2人で対
抗する事になった。本来はモーションに対応してSFがSBの前方にセットしなおすものと思われるが、こ
の時、SBの前には誰も守備選手がいない状態になった。やむをえずCBはSEの正面から、SEとSBの
中間にクッションを深くとってしてセットした。プレー開始。SEは右斜めに真直ぐ切れ込み、SBは一旦
縦に上がりエンドゾーン直前で左に90度曲がるスクエアアウトを走る。QBは3歩のドロップバックから
パス。結果サイドライン前でSBがキャッチ。CBはSEにやや振られながらSBをカバーした。キャッチ
後切れ上がろうとするSBをタックルしエンドゾーン直前でボールデッド。単純なようだが守備が丁寧につ
いて行かなければ、大穴が空いてしまう所がモーション,シフトの恐い所である。
同様に今季VS神戸大戦でみせたプレー。第1Qに2度見せたKG攻撃。
(図2)
↑ ↑
ブロック | |
┌−−−−−−×┘
| |
| |
| |
○○○□○○●#89 ○○○□○○●#89 |
○ ○ ○ \ ○ ●
\ / #82
●#82 *
\
○ ○__×
「セット時」 「プレー開始時」
*=フェイク ×=パス、パスキャッチ
両TEの左フランカ−IからUBに入った#82畑(WR)が右のFLに出て両TEのローンバックになる
。もちろん守備のアサイメントミスを誘う動きだが、神戸CBは正しくFL(#82)の前にセットしなお
した。しかし、実はこの場合やっかいなのは右のTE#89榊原の動きなのである。#89はプレー開始と
同時にLOSを飛び出し、OLBにオープンに出られないように外側から内側へブロックする。QBは左サ
イドへのランプレーのフェイクをRBにいれる。#82は縦を走り正面のCBを引っ張る。QBがフェイク
を入れおわった直後、#89はブロックをやめ、今度は外側(右側)へ走る。ここは#82の縦のお陰で空
いているゾーン。飛び込んだ#89へQBのパスがヒットした。キャッチ後のランも効果的でダウンを更新
した。TE#89は一旦ブロックに向かう(もしくはソノ振りをする)ので、SFはTEへは向かわない。
実はブロックではなくパスコースに出た、と気が付いた時はすでにパスは投じられているのである。TEと
いうポジションの特性をうまく使ったプレーといえる。このプレーは2回行われともに成功している。
2.神戸大のオプションのバリエーション(SB,TE→パワーIへ)
西宮スタジアムでの今季開幕戦(VS近大)で神戸大が見せたプレー。昨年地上戦の核となったFB中島を
卒業で失った神戸だが今年もオプションを中心に多彩な攻撃を見せた。不安視されたバックス陣をFB#2
仁科とともに支えたのが若きエースTB#40朴木である。このプレーはスロットI又はフレックスポジシ
ョンにTEがセットするフレックスIからパワーIへ変化するものである。#2仁科のダイブ及び#40朴
木のブラストプレー,又#40がピッチマンになるストロングサイドへのリードオプションに破壊力を付け
るのが目的である。左右のストレングスも変えている。これが決まればオプションフェイクのパスの脅威が
増す。オプションピッチ自体は、やや決めうちのようで、スイープに近いプレーとも言える。
(図3)
○ ○○□○○ ● ○ ○○□○○ ○
○ #80 ○ ○
○ #80● ○
○ ○
「セット時」 「プレー開始時」
ちなみに立命館/京大戦でも同様のプレーを試みている。TEが一旦下がりWBになり逆サイドへ移動しパ
ワーIになるパターンだった。またこの2試合では逆サイドへTEが移動して逆のWBの位置からパスコー
スへ出るパターン(図4)も混ぜている。今季しばしば好補をみせたTEである。WBに置く事でパスコー
スへリリースしやすくした。プロI(右ストロング)から左ウイングスプレッドとなる。
(図4)
○ ○○□○○●#80 ○ ○○□○○ ○
○ ○ ● ○
#80
○ ○
○ ○
「セット時」 「プレー開始時」
なお肝心のパワーIからオプション(図3)だが、攻撃ラインの負傷などもあり、リードブロッカーがかな
り手前で止められてしまい、立命館/京大戦ではその破壊力は発揮できなかった。その一方で対立命館戦で
好ゲインを見せたのがSB#40がピッチマンになるオプションである。#40朴木の好リターンで立命館
陣20Yからの攻撃だった。
(図5)
○○○□○○ ○
○ ● ○
#40
○
右トリップス体型。FLに入った#40がゆっくりとRBに向かって動きだす。ボールがスナップされる。
RBがLOSへ向かってスタート。RBへのダイブフェイクをいれた後、QBは#40ヘピッチする。#4
0はリードブロックを使い左オープンを切れ上がる。このプレーを連続してゴール前ににじり寄り最後はU
Bのダイブで先制した。なおこのプレーは昨年のリーグ戦でKGがVS立命館、VS京大戦で見せたプレー
からのバリエ−ションである。
3.同志社のFL→TBのスイープ
今季DIV.1に復帰した同志社だが、攻撃面でその原動力となったのが#80川西である。レシーバだけ
ではなくキック,パントのリターナーとして非凡な能力を持っている。同志社RB陣は西川,東ら好ランナ
ーを擁するが一発ロングランの脅威を秘めた存在というよりは、大型OLを生かして『上手に』走るタイプ
である。そこでチェンジオブペースとして川西をRB的に起用するプレーを準備している。
(図6)
○○○□○○ ○
○ ○ ●
#80
○
右スプレッド体型。SBに入った#80はRB後方へむけてスタートする。RBはスナップと同時に左のオ
ープンにダウンフィールドブロックに出る。QBはリバースピボットから#80へトスし、左のスイーププ
レーになる。結果は好ゲインとなった。神戸大の場合と異なり#80は本職はWRである為、オプションの
ピッチをうけるよりも単純なトスとしたと考えられる。「もう一つの本職」であるリターナーに近い形でボ
ールを回し、持ち前の走力を発揮させるプレーだ。なお他にもワンマンスクリーン,ダブルスクリーンも見
せており徹底してランナーとしての川西の能力をフルに生かすプランを準備している事が伺える。又上記の
スプレッド体型からSBをモーションさせダイブ(スマッシュ)させるプレーも見られた事を付記しておく
。
4.大産大のアンバランス・リードオプションのバリエーション
DIV.1に昇格し来年はついに4季目を迎える大産大。今季は昇格の立て役者となったQB,WR,TE
という攻撃のスキルポジションを卒業で一度に失った。QBもエース,セカンドと負傷しサードQBが先発
という苦しい台所事情だった。これは唯一の白星を上げた同志社戦でみせたプレー。攻撃の切り札とも言え
るTB#1を生かすものだ。オフセットIからFLがストロングサイドへモーション。極端なアンバランス
体型になる。スタート同時にSE,FL,Hバックが一斉にリードブロックにでる。左へのリードオプショ
ンだが、早いタイミングでピッチをTB#1に行う。限りなくスイープの形になる。デイライト能力の高い
#1に全てを託すプレーだ。攻撃ラインもCを卒業で欠き決して万全ではなかったが、マンパワーで上回る
結果となり随所で好ゲインを見せた。#1に過剰反応するとQBのオプションキープがゲインするようにな
る。さらに同じようにFLがモーションしながらHバック#40が逆のサイドへスマッシュで飛び込み、さ
らにそのスマッシュのフェイクからQBが右オフタックルを突きゲインしはじめると、この攻撃は止まらな
くなった。UB#40の活躍を抜きには成立しないプレーでもある。パスに実績のない攻撃陣ではあるがプ
レーの組み立てを工夫すればランプレー主体で守備をストレッチする事ができる好例といえる。
(図7)
○ ○○□○○○ ○ ○○□○○○
○ ● ● ○
○ #40 ○ #40
○#1 ○#1
「セット時」 「プレー開始時」
これは明らかにチェンジオブペースではなく中核に据えるプレーバリエーションと言えるだろう。なお第3
節(VSKG戦)で上記神戸大の#40がピッチマンになるオプション(図5)を大産大が見せている事を
付記しておく。
5.関西大のFL(エースRB)をデコイにしたダイブプレー
エースTB#29の負傷により起用されたRB#1(見市)を投入したプレー。スピードに関してはエース
#29を上回ると言われる快速ランナーである。一発を秘めたランナーだけにどうしても過剰に反応する。
なおこのプレ−をベースに組み立てると言うよりチェンジオブペースで行ったプレーと推察される。
(図8)
○ ○○□○○○
● ○ ○
#1
○#32
左スプレッド体型。#1は左のSBにセットしRB#32の後方へ向けてスタートしI体型になるようにす
る。実際は#32のダイブ。#1はデコイとなる。当然、このプレーを出す以前に#1の快速を十分に見せ
つけておかなければならない。実際#29欠場後の#1,#32の活躍は出色で対神戸戦で白星を上げた後
、近大戦でも接戦に持ち込む原動力となった。
ちなみに弟分の関大一高がクリスマスBOWL(対中央大附属)で見せたのは下記のプレー。
(図9)
○ ○○□○○○ ○ ○○□○○○
○ ● ○
○ ○ ○ ○
●
「セット時」 「プレー開始時」
プロT体型でエースランナーを右のWRに出しモーション。パワーI体型になった所で左のダイブオプショ
ンをくり出した。これも決めうちに近い印象があるが、エースランナーにピッチされ好ブロックに助けられ
ロングゲインにつながった。このプレーを出す前にオプションから随所でQBが好走していた点もポイント
である。
なおモーション・シフトを語る上で欠かせないのが京大のギャング・ボーンであるが、フローが複雑な為、
これは別項にゆずる事にする。
(この項続く)
*神戸大及び大産大のフォ−メ−ションに誤りがありましたので訂正しました。(1999/01/07)
以 上