王立戦略研究所


『逆・逆・逆やがな』





1988年のKG VS 京大戦はKG攻撃陣にとっての一つの分岐点であったように思う。
以後現在に至るまでKGが強豪チ−ムを相手に勝負する上での一つの戦い方の例となっている
と思われる。ここでは上記の試合でポイントとなったKGの攻撃を紹介し、その背景,意図に
ついて考えてみる。                                 


<試合前>                                     
さてこの試合で先発し、8割以上のプレ−を指揮したQBが#14埜下である。実はここまで
の6試合全ては#15溝口が先発し勝負が決まった後半途中から埜下が投入される事がほとん
どだった。ここでKGが埜下先発に踏みきった背景には試合展開及び試合後の談話から想像す
るに下記の点が考えられる。                             

1.パスの溝口の先発を予想してプランを組むであろう京大守備の裏をかきランの埜下を投入
  するサプライズ効果をねらう。6試合消化の段階でキャリ−数は少ないが埜下のランは1
  回10ヤ−ド弱のハイアベレ−ジだった。)                    
2.KGWR#32杉原(当時京大#24福島とリ−ディングレシ−バ−を競っていた。)が
  負傷し本調子ではない為ラン攻撃の比率を上げたい。この年のKGはフリ−ズオプション
  を採用しここまでパス獲得距離よりもラン獲得距離の方が多いという『KGとしては異常
  な』年であった。この上パス攻撃のバリエ−ションが減る以上はパッシングQBよりもラ
  ンニングQBを先発させる方が得策。                       

そしてこれらを加味した上で立てたゲ−ムプランは                   
『徹底したグラウンドアタックでボ−ルコントロ−ルオフェンスを展開しロ−スコアゲ−ムに
 持ち込んで勝つ』というものだった。(に違いない。)                
京大は東海が卒業したもののQB#11藤田が好調でKGが破れた同志社を前節で大差(しか
も完封)で下している。バックスは#25駒田,#31森口,が健在。レシ−バ−も#24福
島、他、弓削,二星等若手が伸びてきている攻撃主導のチ−ムである。点の取り合いは危険と
判断したに違いない。                                


<実際の試合展開>                                 
KGのレシ−ブで開始。リタ−ナ−は#22と#14だが#14はリタ−ンが終わってもサイ
ドラインに戻らない。それどころか事もあろうにハドルに加わった。ファ−ストプレ−はQB
の右キ−プだったがTE#89の好ブロックと#14のカットバックであわや一発TDの所を
京大セカンダリ−が片足一本を掴んで食い止めた。次にY体系からFBのダイブ。次に#14
のキ−プでダウンの更新を狙ったが失敗。ファ−ストシリ−ズはパントに終わる。続く京大の
攻撃もダウン更新ならずパント。1Qは8分以上残されていたがKGの第2シリ−ズはその時
間の全てを消化した。つまり第2QまでKG攻撃陣は前進し続ける事になる。       


<ベ−スは何?切り札は何?>                            
フリ−ズオプションを採用したKGはこの年プロIもしくはスロットI体系を使い続けた。し
かしこの試合では両TEのフランカ−Iを多用した。第2シリ−ズのベ−スはUB#35榎並
のダイブ,TB#4橋本,#25三木のオフタックルとした。しかしKGが敢えて強調したの
がQB#14の『足』である。京大LB#5村田にTB#4が捕まりロスした直後の第3ダウ
ンロングで、パス崩れから緊急発進しダウンを更新してしまう。続く第1ダウンでQB#14
は右に大きくロ−ルアウトしランパスオプションから、ポンプアップしてキ−プ。1プレ−で
ダウンを更新する。                                 

                          ┬   14 ┬
                          |    ● | 
            ○ ○ ○ □ ○ ○ ○/ ┬  ↑ |
                14●      /  |  | ○
                   \   /  /   |
                  ○_\_/  /    |
                     \  /    /
                  ○___\/    /
                       \___/


『黙って前に倒れれば10ヤ−ド前進』できるQBである。これまでの試合でもそうだがプレ
−が崩れてキ−プした結果がロングゲインになる事も多々あった。KGのQB史上最大のサイ
ズを持ち、KG.Hのスポ−ツテストの記録を殆ど塗り替えたと言われるアスリ−トである。
スナップと同時にフルスプリントで大きくロ−ルアウトし、トップスピ−ドでLOSに飛び込
んでくるのを止めるのは容易ではない。このロ−ルアウトのランパスは決して『DLのラッシ
ュをさけQBにパスを投げる時間を与える』のが狙いではなく明らかに2列目以降の守備をス
トレッチするのとQB#14に加速させるのが目的であった。しかし本来の目的はQB#14
の『足』に対する過剰反応を引き出す事にあった。                   
続いてQB#14はこの試合初のパスを投じる。右に3歩流れて左に投げるスロ−バックであ
る。                                        


            ×
           /
           /
          |
          |
          |   ○ ○ ○ □ ○ ○ ○
          ●6      14○
                    \__×
                    ○−−→
         
                    ○−−→
 
京大セカンダリ−の足下へのタックルが無ければロングゲインに繋がっていた。レシ−バ−は
#6甲木。QB#14の動きの『逆』を突くプレ−である。ルートはルックイン。     
途中KGは主将のG#60奥を負傷退場で欠くがそれでも前進を続ける。TDは奪えなかった
が第1Qを消化し第2Q開始直後にK#98村上がFGを決めて3点を先制する。TDが欲し
かったがボ−ルコントロ−ル及び時間消費という目的を達成するとともに、ある程度の手ごた
えを掴んだ。                                    


<続く展開の中で>                                 
続く京大の攻撃はパントとなるがKGの第3シリ−ズはQB#15のパスを京大#7が(1年
前に続いて)インタ−セプトして終わる。京大はQB#11からWR#24へのプレ−アクシ
ョンで大きく前進し最後は#25がダイブしてTD。しかしPATのキックを外し6対3の微
妙な点差となる。そして続くKGの第4シリ−ズで再びボ−ルコントロ−ルが始まる。このシ
リ−ズをTB#4橋本の逆転TDで締めくくった後には前半は殆ど時間が残っておらず、京大
はニ−ダウンして前半を終了する事になる。6対10                  
後半は京大のレシ−ブで開始だがダウンを更新できない。続く攻撃でKGは(第5シリ−ズ)
再びボ−ルコントロ−ルする。ゴ−ル前で#25三木のダイブを空中で叩き落とす等京大守備
も奮戦するが最後はQB#14がスニ−クでTD。6対17となる。           
KGのこれら2回のTDドライブで2度行われたのがTEのリバ−スプレ−である。    


           89
           80             ↑#80独走
         ↑ ● ○ ○ □ ○ ○ ○ /
         ○  \     ○14     /
              \___/______/
          \_____/ ○
         14
                 ○


1度目はTE#89目黒で2〜3ヤ−ドの獲得にとどまった。2回目はTE#80築坂がキャ
リ−し30ヤ−ド近い独走となった。TE#80は本来UBでありタテのスピ−ドには定評の
ある選手である。これもQB#14の動きの『逆』を突くプレ−である。         


<その続き>                                    
京大は次のKG攻撃をパントに追い込むが自陣深からの攻撃となる。しかしTE二星へのスク
リ−ンで窮地を脱出。第4QにはY体系からプレ−パスを弓削に決める等して前進するが結局
得点ならず。KGも時間消費はするものの追加点は奪えない。京大はUB#31森口のダイブ
が独走となりゴ−ル前へ。最後はWR#24へのTDパスをヒット。2点コンバ−ジョンを選
ばすキックを選択。しかし失敗。12対17。これがファイナルスコアとなった。     


<さて去年を思い出してみると>                           
97年のKG VS立命館,VS京大戦で見せたプレ−の組み合わせに下記の3プレ−がある

1.I体系からFLがモ−ションしピッチマンになるオプション。QBはUBにギブのフェイ
  クをし、TBがリ−ドブロッカ−となる。                     
2.1.と同じ動きからUBへのギブをフェイクし逆サイドにQBが走るQBカウンタ−。 
3.1.と同じ動きからUBへのギブをフェイクしアクロスを走るTEに投げるスロ−バック
  パス。(これのみ京大戦)                            

これらは前出のプレ−                                
1.ロ−ルのランパスからのQBキ−プ                        
2.早いタイミングでのFLへのスロ−バック                     
3.TEのリバ−ス                                 
4.TBへのスプリントドロ−                            
という組み合わせを考え出す発想と似ている。                     

一つの『恐いプレ−』を軸に『逆をランで突く』場合と『逆をパスで突く』場合である。  
『3つ子の魂』ではないが10年近く経ってもプレ−の選択をする時の基本は変わらない。 
『左右に対して逆』『前後に対して逆』[ラン(パス)ではなくパス(ラン)とも言える] 
である。これらはホンノ一例である。フットボ−ルは準備のスポ−ツである。相手の嫌が  
る事を出来るだけ準備した方が勝つのである。                     

(記憶だけで書きましたので試合展開等微妙に違うかもしれませんがご了承下さい。)   

1998/06/05 ボヨヨン大王                         

ボヨヨン王国
BOYOYON KINGDOM