「鎧球バカ一代」


〜大王の異常な愛情〜
あるいは 私は如何にして心配するのをやめ・鎧球を・愛するようになったか




万博激闘編





3年生だ。3年生は幹部をつとめる等多忙である。                     

フットボールには徐々に本格的にのめり込む事になる。それでも春先はおとなしかった。2年生の
秋に半年ぶりに購入して以来TD誌は今日まで買い続けている。今年は勝てるんじゃないか?と期
待をしながらTD誌を読み情報を集める。学長は総監督といいながら攻撃コーディネータをつとめ
る。芝川がコーチで参加するらしい。                           

    宰相注)いわずと知れた武田健氏のことです。この年のKGはそれまで主武器であったパ
        スオフェンスをほとんど封印、TB橋本のドローを中心にした「泥臭いオフェン
        ス」に回帰しました。                          

監督は伊角さんになった。学生会館の事務をされていたと思うが、実は結構、うちの部員はこの人
に怒られていたのである。                                


たとえば。                                       

部のソフトボール大会が近付く。中庭でCさんとキャッチボールをする。大王は下手なのでしょっ
ちゅうパスボールしてはガラス扉にガンガン当てる。                    

C 「下手くそぉお!」                                 

すると伊角さん登場。「おーい。中庭でキャッチボールしたらアカン。ガラス割れるやろ。」  
文字にすると普通だが実際本人に言われると、これは恐い。スゴスゴと退散する。       

たとえば。                                       

新人勧誘の時期になる。当然勧誘用の立て看板を作る。さらに春の新人歓迎アウトドアイベントの
分の看板も作るのだが、これを含めるとかなりの量を準備することになる。作るのはいいが保管場
所が無い。看板というのは五月雨式に設置するのではなく、同じデザインを同時に数箇所に設置す
るのが効果的なので、仕掛かり品や完成品は一旦確保しておく必要があるのだ。おまけに、部史上
最大の看板を作成し図書館前のヒマラヤスギを隠してしまう作戦もちゃくちゃくと進んでおり部屋
中看板だらけであった。                                 

    宰相注)はっきり言ってめちゃくちゃでした。関学の紹介には必ず使われるあの時計台の
        前にとんでもない大きさの看板を置くのだから、景観破壊以外の何者でもありま
        せん。今から考えると冷や汗ものの作戦でした。              

で、大王は情報宣伝部長である。                             

A 「置き場が無いですね」                               

大王「ローカに出しとくか...」                            

部室の前の廊下に一枚畳一帖はあるベニアの建て看板が20セット近く置かれることになる。  

    宰相注)通行妨害も甚だしい。                          

すると伊角さん登場。いつも開けっ放しにしている部室のドアから入ってきて         

「おーい。看板なおせよー。ローカに置いたらアカン。」                  

文字にすると普通だが、それでもやっぱり恐い。しょうがないので学内走り回って隠す場所をさが
す事になる。                                      

(注)これは片づけたことにはなっていない。                       

けっこう迷惑をかけている部なのであった。そのかわりかなり貢献もしている。        

たまにアメリカンの部員がやってくる。大抵がインカムが壊れたので修理してほしいという話だ。
おまけに最近修理したばかりなのに壊れている時もある。なんでも試合中に審判のジャッジに腹を
立てた某さんが                                     

「なんじゃ!あの審判!!」                               

とスポッター席でブチ切れてインカムを叩き付けたらしい。そりゃ壊れもする。勝ってもらわない
と困るので技術は当然急いで修理する。他にも試合の時にはPAの依頼が来るし、チアのイベント
でもスピーカ、ミキ卓、マイクなど持ってセッティングしたりする。けっこう貢献しているのであ
る。                                          

    宰相注)単語の説明                               
        PA・・・いわゆるスピーカーの類をセッティングして音が出るようにする事。
        ミキ卓・・ミキシングテーブルです。スタジオに置かれているような大型の物と
             は別に持ち運びの可能な(とはいってもかなり大きいものですが)も
             のを使って屋外で使用します。                 
        インカム・サイドラインでコーチや監督が付けている、ヘッドホンとマイクが一
             体になったあれです。あれでスポッターとけんかするわけですね。 

さて、春の西日本大会だがKGはなんと準決勝で負けてしまう。関関戦は敵地関大で引き分けとあ
まり良くない。                                     

「う〜ん。大丈夫かいな。」                               

ヨコハマBOWLをTVでやるというので見てみると、何の事は無い、ALL京大VSALL明治
の試合だけじゃないか。しょうがないのでTD誌を読む。ヨコハマBOWLについて色々書いてあ
る。試合終了間際に日大QB山田に走られて逆転負けだ。山田といえば昨年の甲子園BOWLでシ
ョットガンからのキャッチアンドランで1TD決めたあの速い奴だ。KGはいい所なしかと思いき
や、フリーズオプションなる攻撃を見せたそうな。秋もやるんだろうな。なんて感じで読んでいた
が、この頃からフォーメーションやプレイの中身に興味を持ち始めることになる。       

(注)あんまり試合を見に行っいないのは、何の事はない。お金がないからだ。大王はこの年の春
から下宿を開始。ゼミが忙しいのが理由だ。おまけに教職をとるので体がもたない。よって学校裏
の山手に住むことにした。バイトもしていたが、何せ3食外食だわ、新人勧誘で飯をおごるわ、コ
ンパはあるは、で金がかかる。いつも赤貧洗うがごとしである。1年生に飯をおごって宰相に晩飯
をおごってもらうようでは何が何だがわからん。単車は整備もままならずガソリンスタンドも「満
タン!」と言った事はない。おまけにプラグを交換するお金もないので2気筒なのに、実は単気筒
で走っていたりする。ミラーを盗まれようとレバーが折れようと、そのままだ。        

    宰相注)この時期宰相の財布はイコール大王様の財布でした。で、宰相が何で稼ぐか、と
        いうと・・・麻雀。                           

春の西宮BOWLをTVで見る。関東は強い。特に日大の山田の走力は手がつけられない。関西は
あんまりいい所がなかったなあ。勝てそうな雰囲気はなかった。この頃はフィールドの取り方が甲
子園BOWLのような取り方をしていた。                         

    宰相注)この時期にはすでにかなりの確率でスタジアムで笑いをとる発言をするようにな
        っていました。西宮ボウルのビデオを見返すと、プレーと全く関係ない所でスタ
        ンドから笑い声が・・・                         

で、放送祭の企画だ。                                  

宰相は当然幹部になっている。おまけに放送祭全体の責任者だ。夏の全体会議で多少すったもんだ
があったがスタートした。この年の企画は色々あった。某タレントを呼ぶだの呼ばないだの(結局
呼んだのだが)、某ラジオ番組とジョイントするだのしないだの(結局ジョイントした)、訳が分
からんなりに、新しい事にとりくんだ。                          

問題の関京戦企画だが....                              

「今年は現地から生中継やるで。しかもFMにのせてやる。」                

ほらきた。また宰相だ。                                 

超えないとイカんハードルが結構ある。                          

・協会が許可をくれるか=お金払えとか言われたらまずい。                 
・万博とどうやって接続するか=繋がるのか。FMに載せられるのか。            
・音声の質に問題はないか=スタジオとは話す環境が違う。大歓声にかき消されないか。    
・喋る場所はあるのか=スタンドにケーブルを這わせまくるわけにはいかない。        
・万が一、接続が切れた場合の対策=企画自体がポシャル可能性あり。            

    宰相注)このあたり中継を決意するまでの経緯はまた別途。             

残念ながら宰相は放送祭全体の責任者なので細かい事はやらせてもらえない。陣頭指揮は報道のデ
ィレクターのKが行うのだが、それでも宰相は「特定の企画に肩入れするのは立場上ねぇ....
」などと言いながら、イソイソと関西協会との折衝を始めた。                

    宰相注)この時の連盟の方々のご協力には、今でも二人で感謝しています。詳しい話は宰
        相の四方山話で書きますが、王国建国の遠因の一つにこの時のご恩返し、という
        気持ちがあるのも事実です。                       

大王はそれどころではない。後輩のTとともに実況担当にされてしまった。猛勉強がはじまる。 

    宰相注)「されてしまった」と言う表現は正確ではありません。はじめにこの話を内輪で
        持ち出したときに「俺にしゃべらせんかったらコロス」という目で睨みつけられ
        たのを昨日の事のように覚えています。                  

TD雑誌を徹底的に読む。プレー解説なんかもとにかく読んでみる。食費を切りつめて解説書を購
入する。宰相をつかまえて聞く。ゼミで詳しい人と話しをする。昨年のVTRを見て実況してみる
。追いつけない。                                    

「むずかしい....」                                 

あっという間に秋のリーグ戦が始まった。ディレクターのKが取材を始める。大王は宣伝の準備と
企画のリハーザルの合間を見ては勉強だ。関京戦企画で喋る者に対して、この年から○BSで始ま
ったダイジェストをできるだけ見るように指示がでる。選手もできるだけ覚える事。      



さて、めずらしく時間ができた。単車を飛ばして万博へ行く。京大VS神戸の試合のチェックだ。
メインスタンドに到着したがすでに試合は始まっていた。天気は快晴だったと覚えている。   

なんと昇格したばかりの神戸が押している。                        

「??なんでだオイ」                                  

日陰で観戦する。神戸攻撃はビアから西川、小武が地味に中央を突き続ける。これがズルズルと出
る。ハーフタイム前に50ヤード上を確保したくてバックスタンドへ移動。移動するにはフィール
ドに降りなければならなくなっている。歩いていると頭上をPATのキックが飛んでいく。怖い。

後半も神戸の勢いは止まらない。                             

神戸の応援はオレンジのメガホンを配っている。メガホンに応援歌のシールが貼られている。人数
は今と比べても圧倒的に少ないながら盛り上がっている。リーグ戦も序盤は暑さが残る。喉がかわ
くがお金が無いので我慢だ。京大に元気が無い。いつまで待てば反撃するのだろう。      

試合終了。神戸の勝利だ。                                

「こりゃイカン!!」                                  

あわてて171をすっ飛ばし部へ戻って伝える。                      

K 「何?」                                      

宰相「ほんまか」                                    

大王「ほんまや。神戸強いで。」                             

宰相「う〜ん。負けたか。」                               

K 「.....関京戦もりあがらんなあぁ....」                   

    宰相注)ちょっと記憶違いがあるようで、宰相がこの情報を知ったのは某ジャン荘でした
        。その日は部の麻雀大会があって、宰相はジャン荘でテレビのニュースを見てい
        て知ったのです。この会話は翌日のものではないでしょうかね。       

KGは雨中の甲南戦に勝利して以降順調に勝ち進んでいた。京大との最終戦が優勝決定戦であれば
盛り上がるのだが、仮に消化試合にでもなったら企画としての魅力は半減する。        

しかし、のんきな事を言っていられるのはそこまでだった。                 

宰相が「やっぱりこの目でみておかんとな。最近試合自体見ていないし。」というので、長居へ試
合を見に行く。                                     

問題は第2試合の京大VS甲南戦だ。バックスタンドへ移動して見る。甲南のQB金が良い。キー
プした時の走りに柔らかさがある。止まりそうで止まらない。一方QB藤田率いる京大攻撃は、強
さはあるものの、全体的にもたついた印象があった。また、せっかく点をとっても、守備が反撃を
許し、なかなか甲南を突き放せない。                           

そこで京大福島のキックオフリターンが出た。一度逆サイドに大きく振ると、一気に加速。リター
ンTDを決めた。                                    

「スゴイ!!」                                     

しかし、イエローが飛んだ。リターンチームに反則だ。やりなおし。しかしまるでVTRを見るか
のようなプレーで、再度福島がリターンTDを決めた。                   

「....スゴイ!!」                                 

試合は甲南の熱心な応援も届かず京大の勝利。もう一敗もできない京大が徐々にエンジンがかかり
だしたという印象を持った。                               



さて、リーグ中盤戦。企画のリハーサルにも熱が入る。関京戦企画はスタジオをキーに万博現地、
正門、プラザ、銀座放送ブースなど同時多元生放送になる。実況の合間に学内各ポイントでKGへ
の応援メッセージをインタビューして回していく。しかしいざリハーサルをやってみると各中継ポ
イントの連携が上手く行かない。                             

    宰相注)語句説明その2                             
        プラザ・・・関学の学生会館(クラブ部室や食堂などが入っている建物)の前は
              広場みたいになっていて、結構いろんなクラブがイベントをやって
              ました。で、付いた名前が「プラザ」             
        銀 座・・・中央芝生から学生会館へ行くまでの道を学内では「銀座」と呼んで
              いました。人通りも多く、部室の無いサークル等のたまり場があり
              ました。(今はどうなってるのか知りませんが)        
放送ブース・デコラ机にベニヤ板とアクリル板を張り付けて簡易スタジオ的な感
              じにした室外での放送用デスクのこと。これも手作りで部室前の廊
              下で、一年生の頃大王様と大工仕事をして作らされました。その時
              も伊角さんに怒られたような...。             

全体企画責任者の宰相が頭を抱える。ディレクターのKがリハーサル終了と同時にスタジオから顔
を出し叫ぶ。                                      

「全然アカンぞ!!ダメや!!やりなおし!!」                      

アナ尻をおさえていない。各地点のディレクターのインカムが混線して連絡がつかない。沈黙の時
間が発生する。インタビューの際にインタビューする側が、うまく会話を広げられない。    

    宰相注)語句説明その3                             
        アナ尻・・・中継先がスタジオへ会話を振るときの最後の言葉のことです。ラジ
              オでは中継先の映像が無いので、「この言葉が出たらスタジオに振
              ります」という言葉を決めておいて、さも滑らかに会話しているよ
              うに運ぶわけです。ですからこの言葉がきっちり使われないと、妙
              にぎこちない中継になってしまうわけです。          

Kの厳しい指摘が飛ぶ。                                 

「ディレクターはインカム外すなボケ!」                         

「用事の無い奴が喋るから指示が聞こえんのじゃ!」                    

大王と同じ万博現地組のMがキレる。                           

「不勉強やぞ!選手の名前ぐらい覚えておけ!溝口さんしか知らへんのやったらインタなんかでけ
へんやろ!」                                      

    宰相注)この時期切れてない人間の方が見つけるのが難しい、というのが例年の大学祭の
        パターンでした。ただ、この企画について温度差があったのも事実で、その辺り
        がキレる原因の一つでもありました。                   

大王もますます多忙になる。企画の他に放送祭用ポスターの作成やパンフレットの作成がある。ど
しゃ降りの中、原版を持って単車で印刷会社へ行く。「来るとは思わんかった」と社長に笑われる
。「熱心やなぁ。おまけしとこか。」いい人だ。しまいには「いや、ここは赤と青と交互に使うた
方がインパクトあるで」「これは白抜きで..」と沢山アドバイスをもらう事になる。     

    宰相注)その間、宰相達他の幹部は企画進行のチェック、学内関係部門との調整折衝等別
        の意味で神経のささくれ立つ業務をこなしていました。           

パンフレットを近隣の本屋や貸しCD屋に持ち込む。袋に入れる際に一緒にいれてもらう旨交渉す
る。パンフレットには各企画の紹介のほかFMのタイムテーブルも入っている。さらにポスターを
阪急沿線の各駅にお願いして張ってもらう。他にも、部初のタレントのゲストを呼ぶという事でプ
ロダクションから、「このチラシを貼ってください」と山ほどA4カラーチラシが送られてくる。
「目立つところへ貼っといて」と後輩に頼んだ所、駅の電話BOXの内側にビッシリ貼った奴がい
てかなり慌てた。                                    

    (注)けっきょく電話BOXはそのままにしておいた。               

    宰相注)立派な犯罪です。現役の皆さんは絶対マネしないように。          

さて、やはり生で見た事が無い奴が喋るのも難しいだろうという事で、Kが引率して下級生をスタ
ジアムに連れて行く事になった。長居へ向けて観戦兼勉強ツアーだ。大王は宣伝の仕事で行かなか
った。これがKG VS 同志社戦だ。                          

その日の夕方、部室でつけっぱなしのTVからニュースが流れる。皆、何かしら作業をしている。

TV「関学が同志社に敗れました」                            

一同「え?」                                      

丁度、Kが帰ってくる。                                 

K 「負けおった。」                                  

大王「なんじゃそりゃ!」                                

K 「2点コンバージョンで逆転ねらって失敗や」                     

大王「.....」                                   

K 「ま、まあ、これで盛り上がるよな、ハハハ...どうしよう〜〜...」        

う〜ん。前節あたりからKGは危なかった。ダイジェストでは分かり難いが大体大との試合もかな
りヤバかった。Kいわく「KGはスピードのあるチームには結構苦労している。」       

    宰相注)当時の同志社は茨木監督(今大産大の監督をされているあの人)の指導のもと堤
        という豪腕QBが繰り出すショットガンオフェンスでKG、京大に次ぐ関西NO
        .3のポジションにいました。                      

無敵KGの印象しかない下級生には同志社戦の敗戦には驚いたようである。1敗でKGと京大が並
んだ。KGは立命戦、京大は同志社戦を残している。京大が同志社に敗れるとマズイ。またKGは
立て直せるか?いろいろな心配をよそに放送祭カウントダウンカレンダーは容赦無く減り続けるの
である。                                        


関京戦前日。つまり放送祭前日だ。                            

部室のカウントダウンカレンダーが「あと1日」になる。横にマジックで「ヒェー!ヤバイ!!」
「死ぬ〜」など落書きがされる。皆おかしくなっている。                  

現地メンバーが初めて万博へリハーサルに行く。現地ディレクターのT、以下喋る担当の大王、同
期のY、後輩のT、N1、そして技術のUだ。皆、寝不足でおかしい。万博への道すがらずっと浜
村淳の物まねを全員でしている。おかしい。                        

万博へ到着する。技術のUはケーブルの接続などで前日も来ている。Uの案内で放送ブースへ向か
う。Uは本番をあわせて3日ほど、これに掛かり切りだ。部の企画以外にも大学祭からの依頼も多
く、技術はかなり多忙だ。1人をまるまる投入するのはツライところだが敢えてやってくれた。あ
りがたい話だ。                                     

メインスタンドの階段を登る。万博メインスタンド最上段はガラス張りのプレスBOXになってい
る。フィールドへ向かって左端の部屋に案内された。ドアを開けて入る。           

「うっわぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」                  

絶景だ。緑のフィールドがメチャメチャよく見える。見える見える。快適この上無い。感動の嵐だ
。こんな所で喋らせてもらっていいのだろうか?                      

T 「おおおおお、いいっすねぇ〜!」                          

Y 「凄い!」                                     

T 「おお!大王さん、見てください、このマイク!」                   

大王「おっ!台座付きやんけ!」                             

T 「やっぱスポーツ実況はこれですよ」                         

大王「58とはエライ違いだな」                             

Y 「ちょっと座らせて、座らせて」                           

N1「よっしゃ〜気合入るで!」                             

Y 「こりゃイイわ〜」                                 

大騒ぎするアクター連中。一方Uは黙々と作業する。                    

それもこれも協会のご厚意の賜物である。最上段には同じようなBOXが並んでいる。この場所は
本来は協会関係者の方が使われる部屋だが、そのうち右1/3程度をお借りする事ができた。もち
ろん無料だ。フィールドに面した窓に奥行きはあまりないがカウンターがついている。そこにマイ
クを乗せる。アクターが2名並んで座る。隣にミキサーが小型のミキ卓を乗せて座る。結構窮屈だ
が苦にならない。ちなみに球技場と部のスタジオとの接続は公衆回線を準備して接続している。 

    宰相注)この回線、NTTに頼めば割と簡単に接続できます。費用も当時で20万円程度
        でした。一方のTV回線を繋ぐとなると桁が二つほど違ってきます。(88年当
        時です。今はいくらぐらいなのでしょうか。                

大王「Uちゃん、スタジオと繋がった?」                         

U 「はい。いけますよ...。」                            

スピーカから声が聞こえる。部のスタジオのマスターにいるKが何か喋っているのが聞こえる。 

T 「おお、聞こえますね!」                              

大王「もしも〜し」                                   

電話じゃないのに「もしもし」だ。                            

T 「もしも〜し」                                   

大王「もしも〜し。こちら万博記念競技場で〜す。」                    

.......                                     

K 「おお、聞こえるで〜」                               

T 「おおおおおお、繋がってるで〜!!!」                       

当たり前だ。繋がらなかったら大変だ。会話する感覚としてはハンズフリーの電話みたいな物だ。
当然そのころはそんなモノは無かった。受話器無しで会話している。しかも西宮と。すごい。純粋
に感動した。                                      

部室でも、聞こえる、聞こえる、と騒いでいる。よかった。                 

しかし、いくつか問題が出てきた。アクターが2人ともカウンターに座る。カウンターの向こうは
すぐガラスで、手前にメインスタンドの客席が少し見える他はフィールドしか見えない。アクター
は実況するのでフィールド方向を常に見なければならない。                 

Tが部室と繋がっているインカムで話す。「Kさん、これではキューが見えませんよ」     

同時多元生放送だ。喋り出すタイミングの指示や、喋っている途中の指示をディレクターからアク
ターへ入れなければならない。これは当然。しかしこの構造ではアクターの後ろにディレクターの
Tが立たざるを得ない。キューが見えないのだ。かと言ってアクター、ミキサー、ディレクターと
並ぶほどスペースは無い。                                

悩んだ末、ディレクターのTがその都度紙に指示を書いて後ろから肩越しにアクターに見せる事に
した。多少苦しいがやむを得ない。                            

左手エンドゾーンにスコアの出る電光掲示板。足元がメインスタンド。フィールドがあってバック
スタンドだ。明日はあそがブルーのメガホンで埋まるのだろう。試合が盛り上がったら京大の歓声
の方がよく聞こえてしまうな。等と考えてしまう。                     

不安と自信が混ざる中、部室に戻った。途中、学生会館の会議室前を歩いた。TVのある会議室の
ドアが開いている。うちの他の企画のリハーサルだろうか。ドアの前を通り過ぎながら中をみた。
照明は消えている。                                   

アメリカンの部員がTVを見ていた。                           

おそらくVTRを見ていたのだろう。誰も喋っていなかった。選手の顔だけが白く浮かんで見えた
。漏れ聞こえてきた音声は試合のそれだった。あの伝説の関京戦を見ていたのだろうか。    

部室で最終打ち合わせをして深夜帰宅。デンスケはこれを持っていく。スタンドのインタビュー用
のマイクはこれ、など確認する。いよいよ明日だ。明日は早朝から万博に入る。        

    宰相注)語句説明その4                             
デンスケ・・・携帯用ポータブルレコーダー。ちなみにソニーの登録商標のハズ


「大王さ〜ん、行きますよ〜」                              

N1が起こしに来た。準備はできている。気合の入った大王はブレザーにネクタイ。そしてなぜか
お気に入の南海ホークスのバッジを胸につけた。実況するならネクタイしなきゃね。万博組全員で
上ヶ原を出発する。                                   

大王「デンスケ持ったか...」                             

N1「バッチリです...」                               

坂を下りていく。朝焼けに向かって歩く。眩しい。いい天気になりそうだ。          

大王「眠いな」                                     

一同「......」                                  

眠いに決まっている。                                  

一方部室では、朝から何本かの電話がかかってきていた。学生からの電話だ。         

「看板見たんですけど、今日って関京戦放送するんですか?」                

宰相が答える。                                     

「え〜FMで放送しますよ。現地から。ハイ。まあ模擬店でも流れてますし、銀座にブースという
かスピーカも置いてますので、ラジオが無ければそこで聞けます。ハイ。」          

なかなかの反響だ。他にも「アメリカン放送すんの?」と聞かれた部員が何人もいた。しまいにゃ
○TVからも電話が入る。                                

「今日は関京戦ですけど、そちらで何かやるんですか?」                  

で、宰相が得意げに話す。感心する○野氏。「どんなもんだい」ってところだ。        

    宰相注)実はこの話、古川氏が放送局相手のブリーフィングの時に話されたそうです。宰
        相は父親情報でこの日恐らく電話が掛かってくるであろうことを知っていました

一方万博組は万博に到着する。                              

BOXへ上がる。手はずを確認する。まだキックオフまでかなりの時間がある。        

実況は後輩のT,同期のY,後輩のN1,大王で交代で2人コンビで担当する。また試合の前、試
合中、試合終了の際に、デンスケを持ってスタンドでインタビューする仕事もある。後に素材とし
て活用する為だ。後輩のFとYはKGサイド。N1に至っては京大サイドを担当する。これは度胸
がいる。また後輩のMは試合開始と同時に万博を出て部に戻る。生の雰囲気を伝える為に部のスタ
ジオに戻るのだが、オンエア時間中に帰らなければならない。                

Y 「ほんじゃそろそろお客も入りだすから、インタ行こうかな」              

N1「よっしゃ、行きましょう」                             

カバンからデンスケを取り出す。ゴソゴソとケーブルをつなぐ。               

N1「あ....」                                   

大王「?」                                       

N1「テープが無い!!」                                

一同「げ!!」                                     

しょうがない。大王が気合いれの為に持ってきたKGの応援歌や校歌の入ったテープを供出する。
穴はチリ紙でふさぐ。音質は悪くなるがやむをえない。                   

F 「....電池が」                                 

一同「げ!!」                                     

しまった。サラのバッテリーを持ってくるを忘れていた!!インジケータが殆ど残っていない事を
示した。ここに来て痛恨のミスだ。売店に売っていないか?いや食い物しか無かった。一旦出てど
こかに買いに行くか?万博の周りに店は無い。第一時間が無いぞ。...大事に使うしかない。 

インタチームは不安とデンスケを抱えスタンドへと散っていた。               

    宰相注)普段なら絶対しないミスでした。如何にこの時の万博メンバーが舞い上がってい
        たか、如実に物語っているエピソードです。                

FMのオンエアが始まる。部室スタジオと繋がっているスピーカから番組が流れる。正面にバック
スタンドが見える。徐々に客席が埋まりはじめる。足元のメインスタンドもお客がドンドン入って
くる。大王は部の名称の入ったA4の紙を取り出した。新人勧誘用に作成したチラシの残りだ。部
の名称がゴシックで大きく印刷されている。そとから見えるように窓にテープで張り付けた。とな
りのBOXが少し見える。どこの記者の方かはしらないが目があった。お互い笑ってしまった。 

は〜緊張する。時間がどんどん過ぎていく。                        

フィールドでは中学部の試合が始まった。KG.JH VS長浜だったと思う。当然KGサイドは
KGの応援。京大サイドは長浜を応援する。                        

番組は順調に進む。ニュースが始まる。ニュースの後1時間程パケ番組が流れ、その後「GO!G
O!ファイターズ」の開始だ。                              

すると現地ディレクターのTがインカムで何やらKと会話したのち、インカムのマイクを手で塞ぎ
覗き込むように言った。                                 

T 「大王さん、ニュース短いから、万博に振るそうです」                 

大王「ゲ!」                                      

この日は目立った情報が無かったのか、イベント情報も含めてニュースで色々流すのだが、今日は
時間が余るらしい。生放送の怖いところだ。                        

後輩のTが「どうしましょうかね」と聞く。                        
「う〜ん、丁度中学が試合してるしネタはあるから、それでやるかぁ」            

アドリブならまかせとけ。なんとかする。OKだ。と答える。ニュースが続く。「この後きます」
の紙が出た(ような気がする)。                             

部のスタジオで喋っているのは同期のアナウンサーNだ。「万博記念競技場の大王さん?」   

ほらきた。記念すべき第一声だ。                             

大王「ハイ。万博記念競技場の大王です。」                        

N 「そちらの様子を伝えてください」                          

大王「ハイ。実はですね、もう試合が始まっているんですよ」                

N 「ええっ?」                                    

なんの事はない。中学部の試合ですよ。試合開始早々に2TDをあげましてもちろんKGがリード
しています。という話をした。「いやあよかった。後輩が頑張ってますね。幸先がいいですね。」
ベテランのNだ。さすがソツの無い会話に収めてくれる。                  
続いてスタンドの様子を後輩のN1が伝える。                       

N1「まあ、試合はKGがリード、観客の出足では京大といったところで五分五分の印象ですかね
   。」                                       

うまいまとめ方だ。                                   

ニュース終了。BGMが流れる。OKだ。スピーカからKの声が聞こえる。          

K 「OK,OK。」                                  

大王「あ〜緊張した」                                  

この後1時間後にオンエアだ。すこしホッとした。やれそうだ。               



オンエアの30分前だろうか、BOXから出て外の空気を吸いに行った。扉がやたら重い。中は平
気だが外は寒い。メインスタンド最上段をブラブラする。もうメイン、バックともにかなりの観客
が入ってて、ほぼ満席だ。本当はKGサイドで実況したいよなあ、なんて思っていたらレッツゴー
KGが聞こえてきた。ブルーのメガホンが整然と振られている。団のリードで練習しているのだ。
反対側だが結構聞こえるもんだ。自分の応援している姿はこう見えるんだなぁなんて思った。京大
の応援の音声よりもやはりKGの応援をバックに喋りたいもんであるなあ。身の置き場が無いので
早々にBOXに戻った。                                 

さていよいよ本番が近づいてきた。Tも大王もバッチリ着席している。目の前にはメンバー表、前
節までのスタッツをまとめたもの、マイクスタンド、鉛筆、メモ、時計が狭いカウンターに置かれ
ている。ノイズが入らないようにしないといけないので気をつかう。             

しかし.....なかなか選手が整列しない。                       

「変だな」                                       

と、場内アナウンスが聞こえる。                             

「???何だろう」                                   

BOXの中は場内放送が聞こえにくい。すると同じBOXにいた協会の方が          

「キックオフ遅らせるで」と教えてくれた。                        

まずい!!どの程度遅らせるのだろう。「マジ?」叫ぶT。慌ててディレクターのTがインカムで
Kに連絡を取る。スタンドにはとぎれる事なく観客が流れ込んで来る。あまりの混雑に遅らせる事
にしたらしいのだが、こちらとしてはオンエアはせざるを得ない。パケ番組が終わりに近づく。取
りあえずスタートするしかない。もう殆ど時間がないぞ。しかし最悪、色々喋って間はつなげる事
はできる。こうなりゃ始まるまでいくらでも喋ってやる。                  

一方、部スタジオのKは爆発していた。「何ぃ〜?何分だよ何分。!!」           


時間だ。                                        

部スタジオが叫ぶ。                                   

「GO!GO!ファイターズ!」                             

ポン。曲が流れる。ダウン。曲がBGレベルになる。スタジオはベテランのNとTのコンビだ。 

「ではさっそく万博を呼んでみましょう。万博の大王さん?」                

    宰相注)語句説明その5                             
パケ番組・・・パッケージ番組の略。事前に放送時間に合わせて録音、編集して
               おいた番組の事。この時は時間調整が頻繁に必要になると思われ
               たので、このパケを沢山用意しました。           
叫ぶ・・・・・タイトルコールのこと。大体大声でインパクトを与えるように始
               めるので「叫ぶ」といいます。               
BGレベル・・おしゃべりの邪魔にならない程度の大きさの音楽の音量。   

ホイ来た。                                       

かた通りの挨拶をきめて、本題にすぐ切り出す。                      

大王「実はキックオフが予定より遅れています。試合はまだ始まっておりません。」      

N 「え、?そうなんですか」                              

遅らせるのが10分だという事が判明。N1とディレクターのTが後ろで話をしている。指示がで
た。N1に振る。N1がイスを鳴らさないようにゆっくりと着席する。            

N1「協会からの発表がありまして10分程遅らせるようですねぇ」             

どうする。喋るなら喋るぞ。ここまでのリーグ戦の資料はある。自分なりの試合の見所、活躍が期
待される選手の話、いくらでもOKだ。しかし、ここはKが判断した。「パケ行きます」が来た。
キックオフまで選手のインタビューを流す事にしたのだ。                  

(注)番組の基本的な構成としては、キーになる部スタジオを軸に万博で実況、要所で学内各ポイ
   ントに振ってインタビューを拾う。合間にKGのキーになる選手のコメントを事前に取材し
   て作った短いコーナーを混ぜる。という形だ。この部分はパケなので流すだけですむ。する
   とその間に各地のディレクターと打ち合わせをして、的確に指示を出す時間を作る事ができ
   る。それに、そもそも番組自体、開始から終了まで2時間以上かかる長丁場だ。ずっと実況
   するのもつらい。展開が落ち着いたらこのパケを混ぜるという方針だったのである。   

選手のコメントを収録したコーナーが流れはじめる。                    

大王「だけど、せっかく取材して作ったのに途中で切れちゃうな...」           

ディレクターのTは冷静だ。「始まったらすぐ行きますよ」                 

やむを得ない。選手は整列し始めた。ブルーとホワイトのユニフォームと京大の選手が50ヤード
ラインを挟んで対峙する。スタンドの歓声が一際高くなったが彼らは動かない。        

パケがドンドン流れる。内容はQBの溝口のものだったような気がする。しかし耳には入らない。
まだか。まだか。まだか。動いた!                            

よし、やるぞ。Kに連絡を取るT。くるぞ、すぐ呼ばれる。                 

「万博で動きがあったようです。万博の大王さん?」                    

大王「はい!万博記念競技場の大王です。これより試合が始まります。」           

T 「え〜現在コイントスが行われています」                       

N 「分かりました。では、お願いします。」                       

T 「はい分かりました。実況は私Tと」                         

大王「大王がお送りいたします。よろしくお願いいたします。」               

T 「キックオフは京大ですか?」                            

大王「そうですね....KGがリターンのようです。..そうですね。KGがリターンです。」

T 「フィールドの右から左に攻めるのがKGです。」                   

なにせルール自体もうろ覚えだ。今では選手がフィールドに入る前から分かるのに、この頃はセッ
トし始めるまで自信がなかった。                             

T 「京大のキッカーは前村です」                            

ォォォオオオ という声がガラス越しに聞こえてくる。思ったより聞こえない。        

大王「KGのリターナーは22番小倉、14番埜下です。」                 

言い終わらないうちに開始だ!                              

T 「キックオフです!ボールが高ぁ〜く上がりました」                  

大王「リターナーは14番埜下です!さあリターンする!」                 

(注)試合展開は王立戦略研究所「逆・逆・逆やがな」を参照してください。         

T 「ここで止まりました。20ヤード地点までリターンしました。埜下!」         

大王「そうですね。20ヤードですから、まずまずのリターンです。」            

T 「KGはここからファーストダウンテンの攻撃です。」                 

ここで大王は目を疑った。ハドルに14番の埜下がいる。ブレイクする。QBの位置に向かったの
は14番埜下だ!。おかしい!先発は#15溝口じゃないのか?!              

大王「...これは...クオーターバックは14番ですか?...」            

確認するまえにプレー開始。QBが右にキープする。背が高い。長い足がガシャガシャ上がる。間
違い無い!埜下だ!                                   

T 「クオーターバックがキープして5ヤードのゲインです!」               

そのころ部マスター室のKは驚いていた。「...14番埜下?..ウソや!確認せえ!」   

モニター室にいた宰相はトランシーバのイヤホンを外してFMのスピーカに向かって怪訝そうな顔
をした。                                        

「はぁあ?埜下?」                                   

    宰相注)ここまでくると、もう宰相に出来る事は全くありません。この時点で宰相は完全
        にリスナーモードでした。ちなみに何をしていたかというと、いわゆる「デスク
        業務」というやつです。                         

しかしどう見ても埜下だ。                                

T 「KGセカンドダウンの攻撃です」                          

パニックに追い討ちがかかる。KGのハドルがとける。KGはウイッシュボーンにセットした。 

大王「これは...ウイッシュボーンですか?....KGウイッシュボーン!」       

言いおわると同時にFBのダイブだ。ゲインは3ヤードに見えた。QBを確認する。      

大王「そうですね。間違いありません。クオーターバックは3年生の埜下です。4年生の溝口では
   ありません!」                                  

K 「ウソ!」                                     

宰相「ゲ!....ウイッシュボーン?何考えとるんじゃKGは!!」            

KGは地上戦で前進する。敵陣30ヤードまで進むと段々見えなくなってくる。Tと大王は混乱し
ながら且つ喋りが「かぶりながら」も、とにかく喋る。甲木にパスが決まる。ひたすら中央突破で
突き進む。                                       

とKGに負傷者が出た。                                 

T 「KGに負傷者が出たようです」                           

大王「ちょっと誰かは確認できませんが...」                      

同じ部屋にいる協会の方がボソッと呟いた。「ああぁ。キャプテンや」            

え?キャプテンったらGの奥じゃないか!マズイよ!                    

T 「キャプテンではないかと思われますが、後程確認します!」              

その後も前進しゴール前まで攻め込むがTDは奪えない。フィールドゴールをねらうKG。   

大王「この距離ならまず外さないでしょう」                        

しかし蹴る直前にホイッスル。                              

T 「?」                                       

大王「?」                                       

第1Q終了だった。二人ともまったく気が付かなかった。                  

「このFG終わったら一旦スタジオだそうです」とディレクターT。             

OK,OK。                                      

第2Q開始。村上のFG、は成功!                            

T 「KG先制です!得点は3対0!KGリードです!」                  

しかし、京大はインターセプトからチャンスを掴み福島へのドンピシャのプレーアクションが決ま
る。最後は駒田が飛び込みTD。逆転をゆるす。                      

大学キャンパスの放送ブース前に得点経過が貼られる。3−6京大リード。          

「なんや負けてるやん」通り過ぎる人が呟く。                       

KGはそれでも埜下で前進を続ける。このあたりから大王、Tの実況が怪しくなってきた。KGと
いうチーム。いや関京戦という試合を理解していなかったのだ。               

(注)たとえば、KGのエースRBは榎並、橋本である。しかしこの日は#25三木、#12渡辺
   も多用。リーディングレシーバを争っていた#32杉原が出ていない。そのかわり3年生の
   WR#7渡辺を登場させていた。そして何といっても致命的だったのが、両TEのフランカ
   ーIを軸にラン主体のボールコントロール攻撃を展開していた事に全く触れる事が、否、全
   く気が付かなかったのである。それが決定的になったのが後半RB#80築坂をTEにいれ
   たTEリバースからのロングゲインだった。一方の京大もIではなくY体型をひき、しかも
   そこからのオプションではなくパス。それも福島ではなく弓削や二星をターゲットにする攻
   撃をみせた。これまでに登場していない選手とこれまでにやったことの無いプレーが続発す
   るのがこの試合なのだ。                              

とにかく伝えないといけない。喋らないといけない。プレーを追い続けた。前半終了間際KGはT
B橋本の中央突破でTD。京大はニーダウンして前半終了だ。                

スタジオに返す。席を立って休憩する。後半開始前にこちらに再度振られる。と、後輩のNが早々
と前半のスタッツを入手してきた。マトリックスに両方のチームのキャリアー毎の獲得ヤードがプ
レー毎に記入されている。もちろん手書きのものをCOPYしたものだ。           

    宰相注)この頃から関西連盟のデータ取りまとめの早さ、プレスへの対応は定評があった
        そうです。(これも宰相の父親情報)                   

あっという間に後半開始が近づく。万博に振られる。前半の展開を汚いメモを頼りにおさらいしな
がら説明する。こころなしか両方のチームのスピードがこれまでの試合よりは速い。1.5倍くら
いは速いような気がする。といった事をいったかもしれない。KGのエースRB#4橋本もこれま
での試合では10ヤード近く走っていたのに、この試合では4〜5ヤードがせいぜいで、「走りに
くそうにしている」といった事をコメントした。                      

後半が始まる。                                     

京大の攻撃をパントに追い込むとKGの攻撃だ。前半と変わらない。一度YからIさらにFLがモ
ーションしてアンバランスにするというプレーをみせたが解説しそこねた。          

ドライブが進む。ようやく実況のペースを掴みかけたが、一気に2人とも突き放された。TE築坂
のリバースを二人とも完全に見逃したのだ。動揺する実況陣に追い討ちがかかる。今度は目黒への
ミドルパスが飛ぶ。だめだこっちは置いていかれている。ゴール前だ、TDのあとスタジオですと
いう指示が入るが聞いちゃいない。こっちも必死だ。三木がダイブするが京大加藤が空中で叩き落
とす。ほとんど絶叫だ。最後が埜下がスニークでTDをあげる。               

T 「京大をつきはなすTDです!!」                          

スタジオに返すが、現地は実況を続けた。と、京大は自陣エンドゾーンを背にした攻撃だ。KGの
守備が奮闘する。セーフティー狙いだ。3rdダウン。突っ込むKG守備。しかし頭越しにTE二
星へのパスが成功する!。前にはSFしかいない。競争になる!               

T 「パス成功!走る!京大!」                             

大王「危ない!だれか止めろ!」                             

(注)これは実況になっていない。                            

ロングゲインになった、ところで第4Qに突入だ。慌ててディレクターのTがスタジオと連絡を取
る。                                          

N 「万博で動きがあったようです。万博の大王さん?」                  

大王「はい、こちら万博記念競技場の大王です。大変です。KG大ピンチです。」       

N 「ええ〜?」                                    

大王「第3Q終了間際にTE二星のパスが通りましてKGピンチです!」           

いかん。リードしても油断はできない。しかしここは京大のギャンブルを阻止して事無きを得た。

一旦スタジオに返す。しかしKGも攻撃を続けられない。京大の攻撃になる。実況陣は実況を続け
た。と、今度はFB森口の独走だ。                            

T 「京大走る!走る!」                                

大王「あぶないっ!誰か止めろ!」                            

(注)これも実況になっていない。                            

LBをかわしRの阿南をかわし松場がようやく捕まえたが一気にゴール前に攻め込まれた。スタジ
オから呼ばれる。                                    

大王「KG,大ピンチです!」                              

現在6対17だ。しかしここで一本いかれたらどうなるか分からない。そうこう言っているうちに
京大藤田からWR福島へのフェードのパスが飛ぶ!                     

T 「パスが行った、危な〜い!」                            

キャッチ。エンドゾーンで倒れる福島。ボールは放さない。                 

T 「どうだ?」                                    

大王「....タッチダウン!.....いや....」                  

選手の様子がおかしい。失敗か。そういえばキャッチして着地と同時に白煙が上がった。    

T 「ちょっとまって下さい...これは....」                    

大王「う〜ん。アウトオブバウンズですかね。一瞬外へでたような」             

T 「そうですね」                                   

大王「白煙が上がりましたからラインを踏んだのかもしれません」              

T 「そうですね。パス失敗です。」                           

大王「いやあ、ヒヤッとしました〜」                           

落ち着いたのもつかのま、次のプレーで内に切れ込んだ福島へのTDパスがヒットした。    

T 「う〜ん。タッチダウン!」                             

大王「.....」                                   

T 「.....」                                   

いや〜な雰囲気になる。しかしPATのキックを失敗してしまう。12対17になる。攻撃権を得
たKGは埜下のランを軸にとにかくランで押す。このまま時間を使い切る作戦だ。京大もわかって
いる。とにかくもう一度攻撃権を得て一発決めれば逆転なのだ。KGはT体型から埜下がスルスル
と後ろにセットしなおした。                               

大王「KGショットガンです!」                             

ついにショットガンまでくりだすKG。当然QBキープだ。                 

T 「ついにFG圏内に入りましたKG!」                        

大王「ここで決めれば8点差になるりますからKGの負けは無くなります!」         

T 「村上が出てきました」                               

大王「この距離であれば外さないでしょう!」                       

村上キック!飛ぶボール!                                

T 「どうだっ!」                                   

沸き上がる歓声!審判の腕が水平に何度も振られた。一瞬おいてさらに大きな歓声が轟く。   

大王「外したァア?」                                  

T 「.....」                                   

大王「.....」                                   

歓声の鳴り止まない京大スタンド。                            

T 「試合時間はほとんど残っていません」                        

大王「ここは守りきらなくてはいけませんねえ」                      

京大攻撃チームが登場する。                               

大王「もうおそらく、WR福島へのロングパスでしょう!」                 

プレー開始!ドロップバックする藤田、ロングパスだ!                   

T 「ロングパスだ〜!」                                

大王「これはインターセプトして欲しい!どうだあ!」                   

(注)すでに実況ではない。                               

大歓声の中パスはまっすぐ伸びる!KGDB松場が競り勝ってビンゴ!            

T 「インターセプトォオ!」                              

大王「インターセプトォオ!関学がやったぁ!インターセプトしたのは関学の松場!京大万事休す
   !!」                                      
京大福島がフィールドにうつぶせに倒れたまま、しばらく動かなかったのを覚えている。    

大歓声の中、KG攻撃に代わる。QBは溝口だ。ハドルが組まれる。確認できなかったが選手は泣
いているように見えた。                                 

ニーダウウン。                                     

カウントダウンだ。                                   

Tと大王「5・4・3・2・1!」                            

T 「試合終了!」                                   

大王「関学優勝!」                                   

反対側のサイドラインから選手が一斉に飛び出した。しばらく声が出なかった。はっきり言って泣
きそうだった。Tを見た。Tも涙ぐんでいた。                       

そのころ大学の放送ブースは黒山の人だかりになっていた。実況にあわせてカウントダウンが起こ
った。試合終了と同時に何人かの人が「やったぁ〜!」と叫びながら走っていった。      

    宰相注)学内での盛り上がりには一種異様なものがありました。皆やっぱり気になってた
        んだよなあ。                              

しばらくして4年生のTさんが息をはずませてやってきた。昨年現地からレポートを担当した人だ
。すでに部は引退していたが、試合を見に来ていたのだ。                  

Tさん「おおい!ケンちゃんのコメント取ったぞ!」                    

さっそくメモをとる。これはN1に読んでもらおう。                    

    宰相注)ちなみにTさんは前年は勝利直後の京大東海と屋敷に直接コメントをもらうとい
        う荒業をひろうしてくれました。現在は九州の某放送局でアナウンサーをやって
        おられます。N1の方は中国地方の某放送局でやはりアナウンサーをしています
        。                                   

Tと大王は生も根も尽き果ててしまっていたのだ。                     

選手が整列する。エールの交換だ。しばらくスタジオに返す。呆然としていた。表彰式をするよう
なので、それを待って万博に返してもらう予定だったが、あっという間に行われてしまいタイミン
グを失った。そうだ、今日は関東ではパルサーBOWLがあったはずだ。日大と慶応の対戦だ。勝
者が甲子園でKGと対戦する。                              

大王「Nよ、パルサーの結果って入ってないかな?」                    

N1「う〜ん、協会の方に聞いてみましょうか。」                     

BOXを出るN1。そうだMは無事部室までたどり着いたのかな。よく考えたら予定より早く試合
が終わっていた。ランプレーが多かったから当然か。放送時間が残るがなんとかなるかな。なんて
事を考えたりしていた。                                 

(注)Mは無事試合終了前に部のスタジオにたどり着いていた。駅のコンコースを全力で走ったそ
   うだ。                                      

Yがデンスケで観客にインタビューを取りに行った。帰り際の観客に試合の感想を聞くものだ。 

BOXで協会の方とお話をした。お世話になった古川さんだ。理事として、またKGOBとして短
い時間だが貴重なお話をお聞きする事ができた。本当は万博に振られる時に、少しでも生で喋って
もらおうかと思ったが、お仕事もあるだろうからお願いはしなかった。今にして思えばリーグ最終
戦だったのだから「今年のリーグ戦を振り返って」とか言って何かコメントを頂けばよかったかな
と後悔している。                                    

さて久しぶりに万博に振られた。N1やYが担当する。インタビューの内容を紹介した。実際に観
戦していた観客にすると、総じて「試合は確かにKGが勝ったのだが、印象に残るプレーは京大の
方が多かった。」という印象を持っているようだという事を紹介した。パルサーの結果は残念なが
ら万博には届いていなかった。                              

(注)今では昨年のリーグ最終戦で場内放送があったように、関東の試合結果もリアルタイムで入
   っているようですね。                               

最後はN1が締めた。「すばらしい試合を見せてくれた両チームに有り難うと言いたいですね!」

以上、万博からの中継は終了だ。                             

撤収する。協会の方にお礼を言って皆でBOXを出た。階段を降りる。まだ何人か人が残っている
。売店で飲み物とは別に本を売っていた。「男達の関京戦」。面白そうだったがお金が無い。また
バイト代が入ってから買おうかな。スタジアムを出た。もう暗くなりはじめている。帰りの道のり
の事はよく覚えていない。皆疲れて何も喋らなかった。技術のUがボソッと言った。「学祭終わっ
たみたいですね」。全くだ。初日にしてすでに何もかも終わってしまったような気がする。   

部室に戻った。すでに初日の反省会は終了してたが明日の準備でみな部室に残って何かしら作業し
ている。ご苦労さん。いやあ疲れた。などと会話したような気がする。4年のTさんが部室にいた
。早版の○イリースポーツを手にしている。「関学激勝」の文字が一面に躍る。        

(注)この翌日のスポーツ紙は全て一面関京戦でした。今でも全て保管してある。       

Kや宰相と話をする。キックオフがずれた時はアセッタで。ブースの前で黒山の人だかりやった。
喋りがかぶってたな。○TVから電話があった。などなど。そのまま遅くまで部室に残った。学祭
期間中は部室は24時間使用になっている。深夜幹部だけ残って部室で○TVの放送を見た。照明
は落として真っ暗な中で皆でみた。TVでは築阪のリバースをちゃんと追いかけている。まだまだ
だなあ、なんて思った。やっぱりプロのアナウンサーは違うね。               

学祭最終日は(結果的にブレイク直前だった)2人組アイドル歌手のゲスト出演でアウトドアイベ
ント、FMとも大いに盛り上がった。すでに燃え尽き状態だった大王としてはすべて下級生に任せ
てマイペースで動いた。これで放送祭も最後かと思うと多少寂しかったが、最後に「関京戦実況生
中継」という(思うに部の歴史に残る?)いい企画に参加出来て幸せだった。         

さあ、今年は甲子園だ。日大には春負けている。勝たにゃあイカンぜ、KG!         






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