「鎧球バカ一代」
〜大王の異常な愛情〜
あるいは 私は如何にして心配するのをやめ・鎧球を・愛するようになったか
発動編
1.大学時代(1年生)
さて大学1年生だ。大王は放送部へ入部。ラジオドラマの出演をする。今で言うところの声
優さんだ。クラブ活動が忙しくフットボールへの意識は低かった。なんせ土曜日は練習。日
曜日もなにかと行事がある。もちろん勉強なんかしない。雰囲気は体育会のそれに近いもの
がある。
(注)クラブは4年生まで含めると100人近い陣容だ。
さてそのこの頃のフットボールの意識としては
・アメリカンフットボールの事をアメリカンと呼ぶ。
・今年はレナウンに勝つぞ。
・フットボールはショットガンが最高だ。
・芝川、堀古がいるから今年も強い。
などなど。
要は「KGは今年も甲子園に行くものだと」思っていた訳だ。
先輩の中でもフットボール好きは多い。夜になってテンションが上がると誰も頼みもしない
のに「新月旗のもとに」や「レッツゴーKG」「TDマーチ」の合唱が自然と始まったりす
る。ちなみに校歌や応援歌、エールは進入部員にとって必須項目である。
さて、放送部の目玉は大学祭だ。放送部ではこの期間に放送祭を行う。FMやアウトドアイ
ベント、ラジオ番組の発表、ホールでのお芝居なんかもやる。当然準備に膨大な時間とワー
クロードを必要とする。そうなるとフットボールどころではなくなるのも当然だ。
さて秋になった。当然、学祭の準備で毎日忙しい。そんなある日、4年生のGさんがアメリ
カンの話を切り出した。
(注)放送部は3年生が幹部(執行部)になり4年生は引退する形をとっている。学祭な
どの大きなイベントでは、4年生に助っ人として手伝っていただく機会が多い。
王 「甲子園BOWLって12月ですよねぇ」
G 「ん?今年はムリやで」
王 「え?なんでですか?春は順調に勝ってますやん。岡山大から100点取ってるし。」
G 「アホか。ムリやって。京大には勝たれへん。」
王 「なんでですか。」
G 「東海がおる。」
王 「東海ってそんなに凄いんですか。」
G 「凄いも何も怪物やで」
王 「またまたあ....」
(注)無知とは恐ろしいものである。
秋のリーグ戦が始まった。こっちはバイトと学祭の準備と少しだけ勉強におお忙しだ。シナ
リオを読み合わせする。パケ番組をとる。何度もリテークがでる。看板を書く。ジングルを
取る。生放送のリハーサルをやる。ドラマをとる。反省会を何度もやる。腹が減る。飯を食
う。毎日終電で家へ帰る。ヘトヘトだ。
それでも結果は気になる。新聞を読む。アメリカンは順調に勝ち続けている。
さていよいよ関京戦だ。そして関京戦イコール大学祭だ。
(注)当時KGの学祭が行われていた週は丁度、関西学生リーグ最終週とぶつかっていた
。11月末に行うのには色々理由があるのです。なお京大の11月祭も同じ時期。
当日試合になんか当然行けない。行っているのは団総のPAの依頼で行っている4年生の技
術だけだ。大学中人で溢れている。部の仕事もあれば交通整理なんかもやらなきゃいけない
。一日走り回って終わる。部室でその日の反省会と明日の打ち合わせが終わる。
大王 「...アメリカンどうなったんやろ」
宰相 「負けたらしいで」
大王 「.....」
遅くにG先輩が部室に帰ってきた。機嫌が悪い。かなり悪い。
宰相 「Gさん、試合どうで....」
G 「けちょん、けちょんや!!」
宰相 「....ボロ負けですか」
G 「おお。東海一人にやられた!!けちょんけちょんや!!」
大王 「.....」
スコアは35−7。完敗だ。
家へ帰る。大公様がお怒りだ。長居に見に行ったらしい。皇后様もブツブツ言う。
公 「まーなんやあれ。全然アカンわ」
后 「それ。もう関学は応援ばっかり熱心で、全然だめいね」
公 「ま、実力じゃの」
后 「はぁね。早よう投げりゃええそに、投げんそよ」
公 「それ。へちゃあ捕まっちょるそいね」
后 「はぁ、前へ行かんとね、どんどん下がりよるそ」
公 「よいよ、弱〜いっちゃ」
后 「あれじゃいけんわ」
王 「.....そ。」
お怒りも無理はない。晴れて観戦の大義名分ができたわけで、大公様は張り切って長居に向
かったのだ。それが「けちょんけちょん」にやられたのでは気分も悪かろう。なんといって
も内容が悪すぎた。
その後しばらくしたある日、宰相がフライドポテトを噛りながら部室で雑誌を読んでいるの
を目撃。
大王 「何、それ」
宰相 「タッチダウン」
大王 「アメリカンの本か」
宰相 「そう。有名やで」
大王 「は〜」
宰相 「なんかKGの事、ボロカス書いてるな〜」
大王 「....しゃあないんちゃうか。親父も怒っとったわ」
(注)ちなみに宰相は同じ放送部で制作部門にいた。いわばディレクターだ。当時は今よ
り多少細かった。多少ね。ほんとに多少。
タッチダウンという雑誌を知ったのはこの時だ。その後、宰相と学内の喫茶に飯を食いに行
く。奥のBOXに座る。インディアンカレースパを宰相が頼む。大王はコーヒーだ。
宰相 「は〜疲れたなぁ。放送祭終わってどっと疲れが出たぜ」
大王 「確かに。」
宰相 「う〜んディレクターが足らないな〜」
大王 「俺はしんどかった」
宰相 「確かに大王は使われすぎだよな」
大王 「俺達人数少ないからな。酷使されたぜ。何本番組に出たか。まずAさんのだろ、N
さんのだろ、それからジングルも何本とったかな....」
宰相 「あ〜ドリアも頼めばよかったな。腹減ったぁ。」
大王 「.....」
と、そこへ休部していたKを発見。拉致する。「部に戻ろうかなあ」という類の事を言って
いたのだ。
宰相 「どうする?」
K 「ん〜。報道のディレクターやったら戻ろうかな〜という気はするねんけどな。実際
のところ。」
宰相 「ちょうどええ。ディレクターが足らん。戻ってこいや。」
大王 「そうや。某さんも、もう卒業するし。(笑)」
Kは翌年春に復帰する事になる。これが後々絡んでくる事になる。
その年の甲子園BOWLはTVで見た。日大の試合を見るのは初めてだ。日大を応援しよう
かとも思ったが特に肩入れする事も無く見ていた。日大はショットガンだ。ショットガンは
最強のはず。しかし..。
同点で4Qに縺れ込んだが、勢いは明らかに京大にあった。#19が走る、投げる。そして
強い。本当に強い。
京大の勝利で終わる。
日清のCMが流れる。スタンドの様子が写る。満員だ。くやしい。来年はどうなるんだ。
芝川は4年だったから卒業だ。堀古はまだいる。QBはどうするんだ。うむむ。
ライスBOWLもTVで見た。レナウン相手に激戦の末、京大勝利。甲子園もライスも記憶
が薄いのは、ルールしか知らなかったからだ。KGが勝てなかったレナウンを倒した京大。
東海はまだ3年生じゃないか.....。強い。
2.大学時代(2年生)
試験でヒーヒー言って、バイト代つぎ込んで単車の免許を取り、部の合宿で絞られ、春にな
った。
2年生だ。
さてそんなある日。大学から家へ帰る途中の駅ターミナル。急行が出たばかりで次のが来る
のに20分近くかかる。暇だ。で、駅の本屋に行く。そんなに大きくない。文庫本と雑誌が
ほとんど。立ち読みでもするかと思ったが狭い。ふと顔をあげるとアメリカンの写真が。
「TOUCHDOWN」と書いてある。
は〜。これが宰相の持っていた雑誌だな。ページを開く。開いたページは青一色だった。
「新しき関学・神話への挑戦」
「王座奪回・燃えろ新生ファイターズ」
KGの大特集だった。すぐ買った。
家へ帰る。寝転がって読む。大公様がそれを見つける。
公 「お。なんやそれ」
王 「ん?タッチダウン。KGの特集のってるで」
公 「え。タッチダウンか!!。こんなんなったんか!!。ちょっと見せてみい!!」
すばやく奪い取る大公様。
公 「タッチダウンいうたら、○○の○○がやっとる雑誌じゃろ。確かそうや」
王 「??」
公 「ほれ見てみい。この○○いうのが俺の○○の○○でのう」
后 「○○さんって、あの○○さんかね」
公 「そうや。あいつや。あの○○が作ってしもうたそいね。大したもんや」
王 「え。そうなの。」
(注)○の中はご想像にお任せします。要は大公様は昔からこの雑誌の存在はよく知って
いたという事です。
熟読してみる事にする。なにやらアメリカのカレッジの特集が巻頭にあった。今年来日する
らしい。次に一人の選手をピックアップするページがある。日体大のRBだ。その次がKG
の特集だ。なんと春にKGと京大は試合をしていた。西日本王座決定戦とか書いてあった。
決勝であたったらしい。カラー写真入りで紹介されている。記憶を頼りに書くと.....
新指令塔についた溝口。
「はあ。3年生か。」
サイドラインの堀古はこの日出番無し。
「なんでだろう」
中尾のダイブ
「...中尾」
坂本の〜試合連続のインターセプト
「....坂本」
ショットガンではなく...
「??ショットガンじゃない?」
そういえばQBがセンターの後ろにセットしている。ショットガンやめたのか。そして試合
はなんとKGが勝っている。
「あり?勝ったの?」
僅差だが勝ったようだ。しかし試合の内容を読むと京大は余力を残してこの結果。試合後の
雰囲気もKGサイドが負けたかのようなものだったとある。東海は試合後「残念でした」と
いうアッサリしたコメントを残したそうな。
ページをめくる。
武田学長が総監督に復帰 とある。過去の経歴が延々と書かれている。すごい戦績だ。肝心
の戦力チェックのページ。攻撃、守備の体型、個々のポジションのキーマンが紹介されてい
る。しかし....よく分からない。
とにかくショットガンやってラインの力強さを失いつつあるので、ランも出さなきゃだめだ
からワンバック体型にした。ショットガンの併用もあるがこれでいく。という事は分かった
。でもそれだけだ。
大体Rってなんだよ。SSってなんだよ。守備らしいが何の略か分かりゃしない。SBとか
FLとかって???分からん.....。ここに書かれている事を把握するのに、結局かな
りの時間を要する事になる。
そして2冊めのTD雑誌を購入するのは半年後になる。
さて夏合宿だ。ここで今年の放送祭の企画内容が決定する。総会にかけられる訳だ。総会は
全部員が集まって何時間も行われる。企画一つ一つに質疑応答が飛び交う。その4つの主た
る企画のうち、FM企画の中で、とんでも無い事を言い出した奴がいた。
そいつは何を言い出したか。
学祭と関京戦の日程が今年もぶつかっている。試合が気になっている人も多いだろう。
そこで....
「関京戦の情報をリアルタイムで現地から伝える。」
言い出したのは誰か?
FM企画イベントヘッドの宰相である。
(注)FM企画とは低出力ながらFM電波を飛ばしミニFM局を開くものだ。音楽番組や
学祭イベント情報、ニュースなどを流す。当然受信にはラジオが必要になる。普通
学祭にラジオを持ってくる奴はいない。しかし大抵の模擬店などはデッキで音楽を
流している。そこに目をつけた。模擬店のCMを作成し(もちろん無料で)、何度
もFMで流す。その代わりその模擬店ではうちの放送をずっと流してもらう。とい
う仕組みを作った。それだけでは不足なので模擬店の多い地点に放送ブースを出し
スピーカから流したり、ラジオ付き看板「ラジ看君」を作成して設置したりもした
。この部に以前からある企画だ。
アナウンサーを当日試合の行われる万博記念競技場に一人派遣し、定期的に電話で喋らせる
。電話はもちろん公衆電話だ。もちろん生放送。長めの生番組の合間にレポートが入るかた
ちになる。
反対意見がでる。
「危険だ」
「公衆電話を確保できるのか」
「放送時間内に収まるのか」
「電話の声を技術的に拾えるか」
「音質が悪くなる。聞き取れない」
などなど.....大いに紛糾した。
結局、宰相の熱意で行う事になった。
大王 「宰相、やれるんか」
宰相 「ん?そんなん、やれるよ。絶対。」
無茶を言うやつである。
放送祭の準備は例によって苛烈を極めた。その一方で徐々にフットボールへの興味が出始め
てくる。秋になった。リーグ戦が始まる。この頃からTVでの放送が増えてきた。
開幕の関大戦は長居は深夜にTV放送された。深夜に帰宅して久しぶりにKGの試合を見た
。小雨が降っていた。殆どナイターだったと思う。
KGは上下白のユニフォーム。関大がホームのユニフォームだ。KGは全く点が取れない。
守備も押されている。この試合での関大は守備ラインがすばらしかった。KGのランがこと
ごとく止まる。アナウンサーが叫ぶ「関大ディフェンス強い!!」試合終了間際、KGは時
間消費にでる。関大側スタンドから「卑怯者」コールが出る。
スコアは3−0。
照明に照らされる白のジャージ。雨のせいだろうか、勝ったチームにしてはひどく力なく映
った。
「なんだこりゃ......」
その後もKGは白星を重ねるものの、昨年までの爆発的な得点力がないのは当時の大王から
見ても明らかに分かった。僅差の試合が続く。
部室で4年のC先輩がボヤク。
C 「掘古はどうしたんや...真弓はどうしたんや...」
王 「う〜ん」
春に買ったTD誌のおかげで主力選手の名前はなんとなく覚えていた。
C 「ショットガンやめたのがイカンかったかなあ...」
同学年のエースが試合に出ない。活躍できていない。しかも甲子園での劇的な同点優勝に貢
献した選手たちだ。思い入れもひときわだろう。おのずと昔話になる。
C 「明治とやった時なんか、どうせ日大が出るだるやろって、日大倒せ〜、オー!!って
部室で練習しとったんや。」
王 「はあ。あの試合ですね」
C 「それが明治が来たもんだから、Oなんか、明大倒せ〜、なのに間違えて、に〜だい倒
せ〜とか 言ってやんの。ニーダイって何だよ!!」
王 「ぎゃはは」
C 「俺なんかあの試合、新聞にバッチリ映っちゃったよ。こーんなカッコでさ。」
王 「ぎゃはは」
C 「....今年はしんどいやろなあ」
王 「う〜ん....」
そこでO先輩が吠える。
O 「いや野村がおる!!最後に野村がやってくれる!!」
放送祭の準備でストレスが溜まる。よる遅くまで活動する。フラストが溜まると同時にハイ
テンションになる。そこで始まるのが室内フットボールだ。もちろん11人ではやれない。
3人VS3人で行われる。当然宰相はディフェンスラインで駆り出される。宰相チームは「
技術部の巨人」こと、3年生のOさんと部長のNさん。対するのは、この年も手伝って頂い
たOBのGさん、4年生のCさん、N前部長、だったと思う。
(注)ちなみにOさんは当時ヤクルトにいたボブ・ホーナーと身長、体重ともに同じ。足
のサイズに至ってはOさんの方が大きいという人だ。「Oさんがアメリカンに行っ
ていたらKGは京大に勝っていたと」というのが部の伝説となって残っている。
センターOさん、QB宰相のQBスニークの連発にG.OBチームは苦戦。Gさんはショッ
トガンで反撃する。マスコットボールが飛び交う室内。ちょっとした会議室並みのスペース
だが所詮室内だ。ゴミ箱が倒れる。宰相が何か踏む。机の灰皿がひっくり返る。N部長がイ
ンターフェアだと叫ぶ。バキッという音がする。何か零れている。しかし構わず続ける。
注)このエネルギーを何か世の中の為に役立たせる事はできないだろうか。ちなみにフッ
トボールだけでなく野球も当然のように行われていた。
こうして秋の夜はふけていくのである。そして試合はやはりTVでしか見る事ができない。
放送祭日めくりの日数がドンドン減っていくある日、第6週の試合がTVで深夜放送された
。長居球技場だったと思う。
(注)この日は一度に2試合を放送した○TV、この年は気合が入っていた。関京戦なん
か通常のカメラに加えてクレーンカメラまで出してゴール前の映像を流していた。
まずKG VS 立命館だ。
先発QBは#10野村。いきなりSE#6甲木への80ヤードTDパスだ。次は自らオプシ
ョンキープで30ヤードTD。
「お。すごい。」
一方立命館のDLがパスディフレクトしそのまま持ち込んでTD。はじめて見た。しかしそ
の後、#28堀古が念願のTDパスキャッチ。QBを#15溝口に変えて同じプレーでやは
り#28へTDパスがヒット。この日は堀古はスーパーキャッチ連発。KG快勝だ。
「う〜ん。やるじゃん。」
しかし、続く京大VS近大戦
.....京大が強すぎる。全く話にならん。Gさんのいう所の「けちょんけちょん」な強
さだ。序盤こそもたついたものの、圧勝。
TVを消したらタメ息が出た。
翌日、部室で4年生のN前部長とアメリカンの話になった。
N 「いやあ、あのパスを取るんだからやっぱり堀古は日本一のレシーバーやで」
王 「あれはスゴかったですねぇ」
N 「あんなの捕れるやつおらんで」
王 「そうそう野村が出てましたね。」
N 「野村なあ...怪我してるらしいしね。やっぱり今年も京大かなぁ」
王 「でもKGは、あの試合でバンバン点取ってましたよ」
N 「アホ!その後の京大の試合を見たんかバカモノ!...やっぱり京大強いで」
王 「う〜ん。ダメかなあ」
N 「もうGさんの言うところのケチョンケチョンやでケチョンケチョン」
けちょんけちょんに負けるんだろうか。いやだなぁ。
関京戦前夜。
アウトドアイベントでステージを組む。その背景のベニア版に絵を描かなければならない。
まだ修正するところが少しある。「今日中にやらないと...」FMのリハーサルが終わり
、1Fの学生会館の入り口へ向かう。そこに完成を待つ2畳の大きさのベニア看板が置いて
あるのだ。もう遅い時間だ。
放送部の部室は2Fにある。階段を降りて左に曲がるとすぐアメリカンの部室だ。階段を降
りはじめると大音響の音楽がエコーがかかって聞こえてくる。レッツゴーKGの演奏。いわ
ゆる「気合入れテープ」がラジカセから流れている。
泥だらけの廊下を遠慮がちに歩いた。
ショルダーをつけたまま、うずくまっている選手が見えてくる。
廊下に置いた机の上に足を投げ出して座る選手達。
テーピングを巻くトレーナ。
Kの取材によると怪我人は結構いるらしい。
膝を抱えて頭を伏せている選手もいる。
みな何一つ喋らない。
アメリカンの部室の緑色のドアをそっと見る。張り紙が貼ってある。
「関京戦まであと1日」
「東海は俺達が殺す」
静かだった。
初めて殺気というものを感じた。
気合入れテープの音が廊下でこだましていた。
放送祭日めくりが0になった。いよいよ当日だ。現地から電話をかけるアナウンスのTさん
は部のピンク電話をバラして入手した10円玉を山ほど鞄に入れて朝早く出動していた。
大王はFM企画に加わっていたが、関京戦の時間帯はトンキー前で交通整理だ。ラジオが無
い。試合は始まっている。展開が分からん。応援のIさんが巡回に来た。なにやらリードさ
れているらしい。聞いといて下さいとお願いして、また交通整理だ。しょうがないか。
(注)一方、その頃大公様は激怒していた。大王兄が四国の学会に行くとかでアメリカン
観戦ついでに空港まで車で送ることになっていた。納車して1週間あまりの新車で
ゴキゲンで出動した大公様。大王兄に加えて、いつも通り皇后様と大王妹と毛布を
無理矢理乗せて疾走する。この車は大きいからイイネエなど言いながら。しかし.
...空港の手前で突如エンコ。
「.....どねなっとんのや!!」
激怒した大公様は公衆電話へダッシュ。JAFを呼ぶ。ディーラーを呼ぶ。おお暴
れだ。そして大きく時間をロスした大公様が万博に到着した頃は大勢は決していた
。気の毒な話である。
再度Iさんが来る、
「追い上げてるらしいで。ええと14対17やったかな。忘れた。ははは。」
はははじゃない。心配だ。しかしこの後は又別の仕事で放送は聞けないのだ。
この日の仕事は終わった。もちろんFMも終了している。日も暮れている。部室に戻った。
部員がが三々五々集まってくる。反省会が始まる前のざわついた雰囲気の中、FMヘッドの
宰相に聞いた。
大王 「アメリカンは?」
宰相 「あ〜......アカンかった。24−14。」
大王 「くっそ〜....」
....ダメだったか。
宰相 「やっぱり東海にやられた」
がっかりだ。でもしょうがない。負けは負けだ。24−14ならよくやったじゃないか.。
「くやしい。」
VTで43号線をすっ飛ばし家へ帰る。帰ってからは....大公様の話で大騒ぎだった。
TVは見なかった。疲れきって寝てしまったのだ。
しばらくしてTD誌を買った。どんな試合だったか気になったからだ。パワーギャング京大
2連覇。やれやれ。そうですか。関京戦には結構ページが割かれていた。なかでもTDスカ
ウトのコーナーは秀逸だった。KGの溝口−甲木のTDパス、京大東海のQBスニークから
のTDランがパノラマ写真でしかも5枚連続写真で掲載されている。
なぜここでこのプレーが通ったのか。この時、選手はどのような動きをしていたのかがよく
分かった。何回も繰り返し読んだ。以後現在に至るまでずっとTD誌は購入している。
甲子園BOWLは京大の快勝。ライスも京大が圧倒。ノーステップであんなロングパスを投
げてはいかんよ東海。来年は東海も若林も屋敷もいない。しかし途中から出てきたQB藤田
のロングパスが決まる。
「オイオイ...」
KGどうするんだ。唯一の救いは甲子園、ライスも含めて最も強大に肉薄したのがKGだっ
たという事だ。
以 上(万博激闘編につづく)
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